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ロコ! 思うままに 単行本(ソフトカバー) – 2006/5/20

4.4 5つ星のうち4.4 30個の評価

狂気の者に監禁され育った少年「ロコ」。
幸せの絶頂期に事故で妻子に先立たれた男。
教室で名前すら与えられない男子高校生。
──彼らの魂の回復を手助けしてくれるものとは一体何か?
気付け。
希望は必ずあなたのそばにある。

にがい。だけどユーモラス。そして切ない。
小説家・大槻ケンヂの底力に注目!

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商品の説明

抜粋

 手首を切るためのナイフと,遺書に用いる筆ペンをスーパーで買って、僕は家路を急いだ。
「そうだ、死のう」と決めた途端に、心は晴れやかになった。
 死ねばもう、絶望の闇の中でもだえ苦しまなくてもすむのだ。
 そう考えると、歩調さえ軽やかになった。なぜこんな簡単な解決策を今まで思い付かなかったのか? 自分の愚かさに笑いまでこみあげてきた。
「ふふ、ははは、そうだ、死のう、死ねば楽になる。悦子と桃太に天国で会える。ふふふふ、はははははははは」
 ここ半年あまりの重圧が一気に消え失せていく、死の甘い誘惑だった。
 ついにスキップまで踏みながら三丁目商店街を急げば、道行く人々がサーッと右左によけていった。
「かわいそうに」とつぶやく主婦たちの声が聞こえた。
 これから死ぬ身には近所の評判などもうどうでもよい。「死のう、死のう。あははは」湧き上がる笑い声をおさえもせず往来の真ん中をやがて駆け出していた。
 自殺決行地と決めた自宅マンションまであとわずかであった。ところが手前にあるゲームセンターの角を曲がったところでハタと足が止まった。
 背中に子供の声を聞いたような気がしたからだ。
“助けて、ここから出して”
 確かに、そう聞こえた気がした。
 ふり返って辺りを見回すが、子供の姿などなかった。よりいっそう挙動不審な僕の様子に、主婦たちがそそくさと逃げていった。
 背後にはUFOキャッチャーの機械があるだけだった。
 ぶ細工なぬいぐるみが数体、ケースの中に積んである。その中の一体、黄色い熊のぬいぐるみと目があった。赤子ほどの大きさ、配置のずれた丸い目、口は笑ったままの形状で縫いつけられている。腹の中心に大きなデベソ。ぶ細工な上に、あわれを誘うくてり具合だ。
『今、助けを求めたのはこいつだ』
 と僕は直感した。
 そして『助けてあげなくては』とも感じた。
 妻と子の命を救ってあげることのできなかった銀河系最低のゴミ人間であるこの僕だ、それで罪の償われるはずもあるものか。だが、せめて、桃太のかわりに、わずか二歳で死んだかわいそうなあの愛しい生命のかわりに、ケースの中で助けを求めているように感じられる、この小さな存在を、救い出してあげたいと心の底から僕は思ったのだ。
「よし、まかせろ、一回で取ってやる!」
 ……アッという間に一万円すってしまった。
 そういえば以前、桃太に何か取ってやろうとした時もあまりに下手で、悦子に涙を流して笑われたなと思い出す。今も、あせればあせるほど、ぬいぐるみはいいところで、クレーンのグリップ・ハンドからこぼれ落ちてしまうのだった。
「もう少しだ、おい熊公、お前もがんばれ!」
 いつの間にか声が出ていた。自分自身を、励ましていたのかもわからない。
「あきらめるな! パパもがんばるからな!」
 ケースの中でぬいぐるみがじっと僕を見ていた。
 死ぬ直前の、病院に運ばれてきたベッド上の桃太と同じ姿勢で、小さな体が僕を見上げていた。
 そのプラスチックでできた黒い目に僕の顔が映っていた。
 歯を喰いしばり、瞳には涙があふれている。鼻水まで流れっ放しだ。
『きっとこれこそが、愛する者を亡くして鬼と化した狂人の顔というものなのだ』
 わずかに残った正気の心が自分自身にそう教えた。
「お前! どうした!? 負けるな、がんばれ、やり直すんだ! こっちへ来い、抱いてやるんだから、ぎゅっと抱きしめてやるんだから、がんばれって!」
 また熊がコロリとグリップ・ハンドから落ちた。
 もどかしさに思わずケースを拳で叩いていた。
 ゲームセンターの、パンチパーマで決めた店長が睨み付けながら近づいてくる。元ヤクザとの噂がある中年男だ。読んでいた雑誌を丸め、どうやら殴りつけるつもりのようだ。
 かまわず僕はケースを叩き続けた。妻子を亡くして以来、感情の制御すらできない。
「おいがんばれ! がんばれよ! パパだってがんばったんだ、助けてあげようと祈ったんだ、それなのにどうしてだ!? なぜ愛する者が愛する者を助けてあげられない!? なんでだ……俺たちは家族だろ……なんでパパ一人を置いて……」
 カチャリと音がした。

(『モモの愛が綿いっぱい』冒頭部分)      

著者について

1966年東京都生まれ。90年代バンドブームの核となった筋肉少女帯のボーカリストとして活躍。現在はロックバンド・特撮を率いる。小説では「くるぐる使い」、「のの子の復讐ジグジグ」で二年連続星雲賞を受賞。著書に『グミ・チョコレート・パイン』(三部作)、『リンダリンダラバーソール』、『ゴスロリ幻想劇場』など多数。

登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 光文社 (2006/5/20)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2006/5/20
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 351ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4334924972
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4334924973
  • カスタマーレビュー:
    4.4 5つ星のうち4.4 30個の評価

著者について

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大槻 ケンジ
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カスタマーレビュー

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上位レビュー、対象国: 日本

2020年6月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
オーケン作品の中でも読みやすい1冊です。
2020年5月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
とっても面白かった
2006年11月28日に日本でレビュー済み
昔、ぼくは大槻氏のファンだったのだが、あまりにも彼の作品に触れすぎたためか、いつしか食傷気味となって、彼から離れていった。

彼の作品に魅力を感じなくなってきたのは(お互いの)年齢のせいだろう、と思っていた。

彼はもう40、ぼくだって三十路を越えてしまった。

感受性も麻痺してしまったんだ・・・。

ふと立ち寄った本屋で本書を見つけた。

少し迷って結局購入した。

家に帰って読み終わり、いや、読みながらぼくは彼のエキセントリックな世界観、表現方法がちっとも昔と変わらないことに気づき、とてもうれしく思った。

懐かしい、と思った。

文才も衰えているどころか、ますます筆が冴え渡っている。うまい。

「天国のロックバス」には「中島らも」が登場します(?)

星ひとつ引いたのは、ぼくがエログロな表現があまり好きではないという個人的な評価にすぎません。

最後にもしこれを読んでいるあなたが10代ならば、「絶対読んだ方がいいよ」とだけ言っておきます。
27人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート
2006年10月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
オーケンの小説は、いつだって「まとも」で「優しい」。

悲しくて不条理で、生きるという事に頭抱えて悩んでいる

世間から言えば「馬鹿者」(又は弱者)を、掬い上げてくれる。

どんな時も、優しく手を取ってくれる。

この本は、短編集になっています。

「ロコ!思うままに」

「天国のロックバス」

の為だけにでも、読んで欲しい。

帯に書かれた通り、「まだ作家・大槻ケンヂを知らないあなたへ」

読んで欲しいです。色んなタイプの話が書かれています。

最後の「天国のロックバス」に繋がるまで、読むのをやめないで欲しい。

中島らもに捧ぐとオーケンが記した本。

涙が出ます。心に根付きます。

自分が自分として生きる事を、恥ずかしがらないで生きるために。

出逢ってください。この本に。

特撮のベストアルバム「ロコ!思うままに」に、

同タイトルの曲があります。小説を読んでこれを聴けば

涙が溢れて、これ以上無いほど優しい気持ちになれるはずです。
20人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート
2014年9月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
筆者の大槻さんがやっているバンド特撮での
同名の曲がとても好きなので購入して観ましたが
とても面白かったです
2006年6月26日に日本でレビュー済み
この小説を電車の中で読んではいけない。
特に朝の通勤電車の中では読んではいけない。

なぜなら、
「今日もこれから仕事(学校)かぁ…ダルイなぁ…」と
陰鬱な表情の乗客の中でただひとり号泣して車内で大注目を浴びるハメになる。

てゆうか、なった。
すげ恥ずかしい。

更には物語にのめり込み過ぎて下車する駅を降り損ねる危険性がある。

てゆうか、降り損ねた。
おかげで遅刻だ。
どうしてくれるよオーケン。

一発目の『ロコ! 思うままに』でまず号泣。鼻水だらーん。ティッシュ必至。
その後も衝撃作品は続きに続き、
胸が熱くなったり、時には背筋が凍りついたり。
隣の誰かの、もしくは自分の中の、
見てはならない闇を見てしまったような恐怖感を味わったりもする。

ラストの『天国のロックバス ロコ! もう一度思うままに』では、
スポーツタオルが必要です。
泣きますから。
ハンドタオルではおっつかないでしょう。
スポーツドリンクもあった方がいいかも知れません。
脱水症状を起こすと大変ですから。

この小説を読む時は、
是非スポーツタオルとスポーツドリンクを用意して、
通勤電車ではないどこかでじっくりとお読み下さい。

読んだ人は次の日から、読んでない人よりも少しだけ、
大きな歩幅で生き生きと上を向いて道を歩けるのではないかと思われます。

大槻ケンヂという人は、やっぱりどうしてもスンゴイお人だ。
51人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート
2012年7月19日に日本でレビュー済み
オーケンさんの短編集はこれまでも傑作ぞろいでしたが、
これは個人的に最高傑作だと思います。

自分はイマジン特攻隊が、大好きです。

やはり、精神状態が一番良かったころに執筆された小説は
内容にも反映されるようです。

芸能人の書いた小説だからとくわず嫌いしている人は
騙されたと思って読んでみてください。
完全に作家の小説として完成されています。

そしてなによりわかりやすい。
SFエンタメの見本にしてもよい珠玉の短編集です。
1人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート
2010年2月25日に日本でレビュー済み
自分は若者を見守る歳になったと言ったオーケン。
オモイデ教やグミチョコの頃に見られたがむしゃらな若さから色を変え、本作には父性的な温かさがいっぱいに詰まった上質な短編が揃っている。

ロコは父親に折檻され、外の世界を知ることなく閉じ込められている。
このお化け屋敷に軟禁されているという設定がオーケンらしくてとてもいい。
ロコにはお化けの友達がたくさんいる。拷問部屋には水車に縛り付けられたボブがいる。
ボブは相談したくなるような、父親のような男である。

外の世界に出ようか戸惑うロコにボブが言う

「ロコ、思うままに」

ロコはかつての、ボブは現在のオーケンなのである。

オーケンはとてもやさしい。とてもやさしくなった、と思う。
16人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート